年間SF傑作選2008年版。何はともあれこれさえ読めば2008年のSFは一通り押さえられる……かはともかく、面白い作品が揃ってます。
タイトルの『超弦領域』は昨年の『虚構機関』から続いて漢字4文字、意味不明がコンセプトか。表紙と相まって間違い探し状態。10年ぐらいすると京フェスあたりで「順番に並べる」クイズになるんではないかと予想するようなテイストであります。
で、肝心の中身についてだけど、考課表があるので、それに沿って-3〜+3のスコアを付けながら収録作を紹介していく。
ちなみに、意図的に点数の幅を広げようと思っている。個人的には+3は「年間ベストクラス」ぐらい。-3は年間ワーストぐらいのつもり。
法月綸太郎「ノックス・マシン」 +3
「ノックスの十戒」をテーマにしたバカSF。文章構造を数学的に解析する数理文学解析というアイディアも素晴らしいが、きれいにオチる結末も非常によい傑作。星雲賞候補になっていたが、以前も書いたように規約の関係上、1年待って欲しかった。そうすれば星雲賞を十分に狙えた逸材。
林巧「エイミーの敗北」-1
「だから?」としか言いようがない小品。個人の考えている内容さえ「エイミー」と呼ばれる「集合的無意識」に管理されている世界を描いていることになるのだが、この辺の設定や描写はわりとありがちなものになっていて薄っぺらい。林巧はSFMに寄せられた幻想味のある作品は割と好きなんだけどな。
樺山三英「ONE PIECE」-2
フランケンシュタインの怪物をテーマにした作品。隠喩やメタフィクショナルな構造は樺山らしいが、好きじゃない。
小林泰三「時空争奪」+3
河川争奪をネタにした時間SF。ある日、鳥獣戯画の動物たちがみたこともない異形のものどもになっていた、という冒頭からは想像もつかないヴィジョンや、結末で明かされるキリスト教ネタがたいへんよい。
津原泰水「土の枕」0
第二次大戦におけるある兵卒に関する掌編。非常に面白いので個人的な評価は高いが(なのでみなさんもこの短編だけは読んでみて欲しい)、「SFの傑作選」に入っている作品としては高い点数を付けづらい。ジーン・ウルフを引き合いにだす大森望による短評もさすがに牽強付会が過ぎるだろう。
藤野可織「胡蝶蘭」+1
胡蝶蘭にまつわるちょっと怪奇っぽい作品。津原泰水に対してああ書いた手前、「SF」かどうかということを言い出すときりはないのだが、ファンタジーというかホラー隣接領域の作品としては面白い。
岸本佐知子「分数アパート」+1
エッセイ。SFというか、広い意味で超現実的なのは腰から生えた弟の話だが、これって訳している作品の話だしなぁ、という感じ。もっとも中身のクォリティは相変わらずで面白い。
石川美南「眠り課」0
短歌。短歌の良し悪しは分からない。
最相葉月「幻の絵の先生」+2
星新一が幼少期に通っていたという絵の先生のエピソードと新聞に掲載された一枚の写真から星家の複雑な血縁状況を幻視するノンフィクション。面白く読んだ。
Boichi「全てはマグロのためだった」+1
まんが。マグロが絶滅した世界で、マグロの復活に全人生を賭けた男の空回りな活躍を描く。何をやってもマグロだけは成功しないが、研究の副作用で人類を滅亡の危機から救ったり地球外生命体とのコンタクトに成功したりしてしまうギャグなのだが、「ネズミの癌治療薬」という、なんとなく考えさせられるような気もするフレーズや、何故か感動的な結末も含めてなかなか良い。
倉田英之「アキバ忍法帖」+2
山田風太郎の忍法帖を下敷きに、現代の秋葉原で「その道」に秀でた強者たちの熾烈な戦いを描く爆笑の逸品。わざわざ12人もの強者を紹介したり、なぜか強者どもが山風忍者っぽい台詞回しでしゃべったり、あまりのくだらなさに腹を抱えて笑う。いいぞ、もっとやれ!
堀晃「笑う闇」+2
ワールドコンで現役の研究者とSF作家との交流から生まれた作品。ロボットと人間の漫才コンビの顛末を描いている。正直に書くと「現役の研究者との…」という但書を付けてしまうと「どの辺が?」という気がするのだが(堀晃はこれぐらい、そんなものがなくても書いていたろう)、作品単品としては細かいところまで目配りの行き届いた佳作と言えるだろう。
小川一水「青い星まで飛んでいけ」-1
SFマガジンのアーサー・C・クラーク特集号に掲載された作品。人類滅亡後、星々を巡りながら知的生命体を見つけては接触を繰り返す機械群を視点にした遠未来SF。妙にひきこもりテイストな主人公(=機械)の視点は「ハイフライト・マイスター」と同じ問題意識で書かれたものか。しかし、残念ながら全然面白くない。いくらなんでも2008年、小川一水の短編がこれしかなかったということはないと思うがなあ。
円城塔「ムーンシャイン」+1
「全く理解できないがなぜか面白い」という立場を円城塔は確立してしまった。これもそう。面白いといえば面白いのだが、もう少し頑張って読もうかとも思うのだが、なぜかそこまでする気になれない。で、そういう気になれないとすれば+1止まりとなるのもむべなるかなというか。そこが円城塔の不幸である、のかもしれない。
伊藤計劃「From Nothing, With Love」+2
読んだときには気付かなかったが、『ハーモニー』と同じ問題について扱っている作品だった。つまり、意識。このテーマが伊藤計劃にとってどういう意味を持っていたのか、ということを考えてもやもやしてしまう。正直にいうと同著者の短編という意味では「The indifference engine」は越えていないと思うが、優れた作品であることは間違いない。
ふと気づいたのだが、星雲賞の参考候補作とまるで被っていないリストですね。受賞作の「南極点のピアピア動画」も入ってないし。逆に私たちは「時空争奪」を候補にすら挙げていないということを恥じなければならない。