S-Fマガジン2010年1月号

This entry was posted by on Sunday, 13 December, 2009

考課表があるのでそれに沿って掲載作品の感想を書いていく。

テッド・チャン「息吹」+3

Eclipse Twoに収録されたときに読んだが、日本語に訳されてもやはり面白い。短いのでネタバレを避けるために内容紹介は避けるが、これは傑作だろう。分量も短く、言ってしまえばただのアイディアストーリーだが、アイディアの斬新さというよりは料理の仕方で成功している作品。

グレッグ・イーガン「クリスタルの夜」±0

計算機の中に芽生えた人工知能に対する苛虐についての倫理的な問題を扱った物語だが、これを読んでの感想は「そう簡単に知性が芽生えたら楽でいいよねえ」ということだった。最近とみに自分の計算機科学系SFネタに対する許容度が下がっている気がしてイカンなあと思うのだけど。ただ、イーガンの問題意識がぜんぜんわからないという人は石黒先生のこないだ出た新書あたりを読むといいのではないかと思う。

テリー・ビッスン「スカウトの名誉」±0

特になし。

ジーン・ウルフ「風来」+2

はじめはごく普通の、ちょっと厳しい寮生活の子どもたちの物語といった雰囲気で読者を引き込んでおいて、相互監視社会の嫌なところをうまくすくいとっている。風来に対する大人たちの見る目がなんとも言えない。ウルフはうまいなあ。

シオドア・スタージョン「カクタス・ダンス」-2

若干幻想味のある西部劇風の舞台の物語。どこが面白いのかわからん。

ブルース・スターリング「秘境の都」±0

最後まで入り込めなかった。設定的には面白そうなんだけどなあ。

コニー・ウィリス「ポータルズ・ノンストップ」+1

ファンのファンによるファンのための愛すべき短編といった風の作品。ウィリスはファンを転がすのが上手いとつくづく思う。この作品には読んでいていいように転がされた感じ。

ラリイ・ニーヴン《ドラコ亭夜話》-1

いやー、さすがに古いですねー。これぞニーヴンと言いたいところではあるし、思えば昔はこういうのもすごく好きだった気がする。ただまあ面白くはない。

アレステア・レナルズ「フューリー」+2

やっぱりレナルズは短編が面白い。序盤はいささかたるいし、構成としても敵が秘密を全部しゃべってくれるという安直なものだが、当人も忘れていた主人公の正体や、最後に主人公が出した結論がなかなか面白いのでよしとする。ムダに長い長編を書いていないでもっと中短編に注力してくれないかな。

ジョン・スコルジー「ウィケッドの物語」+1

ロボット三原則を一捻りしたアイディアストーリーだが、これもなかなか面白いひねり方をしている。スコルジーは、一見普通のミリタリーSFに見えてじつはかなり変なものを書く人だなーと思うが、こういうのは歓迎、歓迎。ところでこの作品は綺麗にオチのついた軽妙な短編なのだが、冷静に考えるとほとんど『戦闘妖精・雪風』なわけで、比較してみると神林がいかにねちっこく掘り下げているかがよくわかる、かも。

パオロ・バチガルピ「第六ポンプ」+2

Idiocracy (『26世紀青年』というひどい邦題でビデオ販売中)みたいな世界を描いた作品。もしくはインフラが壊れるとヤバイという話かも。もっともコミカルな作品ではなく、むしろ絶望的な世界をシニカルに描いていて、しかしわずかに救いのある結末が余韻をもたらす。バチガルピの短編集は訳されないのかな。

ダン・シモンズ「炎のミューズ」-2

シェークスピアには全然興味がないもので、たんに長々とシェークスピアの講義を受けているような短編だった。世界観にもいまいち入り込めず、ひたすら長くて本当に読むのがつらかった。グノーシス主義にもとづいた世界観にもさっぱり興味を覚えず、とにかく興味のない内容だと苦痛だよねという作品でした。

フィリップ・K・ディック「凍った旅」+1

コンピュータが主人公に幸せだったころの記憶を見せてとにかくハッピーにさせようとするのだがことごとく失敗するという一発ネタくさい短編。しかし、とにかく主人公がやけに後ろ向きで、何を見せても嫌なことを思い出して台無しになるのが素晴らしい。笑いながら読んだ。

カート・ヴォネガット「明日も明日もその明日も」±0

50年以上前に書かれた掌編で、寿命が伸びに伸びて人口過密状態になった社会でのある家庭を描いている。設定はありふれたものだが、ユーモアがあって楽しい。とくにオチがくだらなくてよい。

R・A・ラファティ「昔には帰れない」±0

なんか普通。

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「いっしょに生きよう」±0

ひょんなことから人間に取り付いた寄生生物の知性体の視点の物語、という設定だとたいがい邪悪な相手に人間がパニックになる小説になりがちだが、落ち着いた筆致でファーストコンタクトをうまく描いている。ちょっと「たったひとつの冴えたやりかた」を思わせる設定だと思ったが、あまり関係ないか。

ウィリアム・ギブスン「記憶屋ジョニイ」±0

これは再読。わたしはギブスンはよくわからない。カッコいいところはカッコいいんだけど……。あとやっぱ黒丸尚のこの文体は読みづらいと思うよ。


さて、創刊50周年記念号ということになっている今号だけど、正直に言わせてもらえば当たり外れがけっこうある印象だ。それでも、チャンやイーガン、レナルズ、スコルジー、バチガルピといったような、おそらくこれからも本誌を賑わせるであろう面々の新作は(出来不出来はそれぞれあるとしても)それなりのタマだったかも。ほかのはまあ……とりわけスタージョンは、無理に未訳のものを探すよりは名作SF再録に回した方が良かったんじゃないかなあ。

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