書き下ろし日本SFコレクションNOVA 1

This entry was posted by on Friday, 18 December, 2009

NOVA 1—書き下ろし日本SFコレクション

大森望責任編集(笑)のオリジナルアンソロジー。新作短編10編+αが収録されている。テーマアンソロジーではなくて、とりあえず短編でSFっぽければ何でも良い的なものであるらしい。

各編の感想は下に書くことにするとして、とりあえず全体的な感想を書くと、「まあこんなものだろうか」というのが正直なところである。いわゆる「傑作選」的なものではなくアンソロジーなので、傑作ぞろいであることを期待するのもお門違いというものだが、面白いものもあれば読んで困るものもある。

それから、なんというかある種の偏りが出ていて、例えば宇宙SFとかみたいなエスエフエスエフした作品はあんまりない。これは今回たまたまだと編者は主張することだろうが(それは今後どうなるかで見定めるとして)、読者としてこういう偏りってどうなのかなと思いつつ、ただアンソロジーとしてはアリかとも思う。おれの個人的な好みはさておき、バランスよりは編者の偏向があってこそのアンソロジーだろう。そういう意味ではなかなかに「らしい」モノになったのではないかと思う。

各編の感想は、こちらも考課表があるので、それに沿って-3〜+3までの点数をつける。

北野勇作「社員たち」+1

何もかもが曖昧模糊としてわからない状況を北野勇作は好んで描く。それの調節をうまくひねればホラーになるし、SFにもなる。SFを描く場合、世界が崩壊するような感覚への恐怖というよりは、そういう世界になんとなく適応してしたたかに生きる主人公が描かれる。寓意も読み取ろうと思えば読み取れるが、そう読むのが正しいような気がしない。この雰囲気が味わえればいいように思う。

小林泰三「忘却の侵略」-1

さすがにこれは読めば主人公が何をやっているかはわかるでしょう。オチはなかなか効いているような気がするが、それ以外には見るべきところがちょっとない気がする。

藤田雅矢「エンゼルフレンチ」+1

甘いラブストーリーな宇宙SF。ほしのこえみたいな(ちょっと誇張)。嫌いじゃないよ。あと登場人物のモデルというかディティールがどう読んでも京大SF研OBの某氏なので、それを知ってるとまあちょっと楽しいというか。

山本弘「七歩跳んだ男」±0

山本弘は、こんなアンソロジーを読むような奴は自分がどういう人間かということは知っているということをきちんと把握した上で、きちんと読者の読みを誘導し、きちんとひっくり返したオチをつけた。というわけでSFミステリとして悪くないと思うのだが、さすがに最後のどんでん返しが強引な感じがした。ミステリ読みだとこの辺がいいんですかね。

田中啓文「ガラスの地球を救え!」-1

これはいったいマジで書いているのか、「こういうの好きでしょ」というサービスのつもりでやっているのか、嫌がらせなのか。最後のセリフにイラッとくるのは著者の術中にはまっているのかどうなのか、よくわからん。しかし、少なくとも表層的には面白くない。

田中哲弥「隣人」+2

「羊山羊」が好評だったので同じような方向性で、ということだろうか。迷惑な隣人ネタとして普通によく出来ているが、とくに持ってくる食い物の嫌描写は圧巻で、食事中には絶対読んではいけない。

斉藤直子「ゴルコンダ」±0

棒の手紙を一捻りしたアイディアSFで、オチまでうまくまとまった佳作ではある。ただ、実在の棒の手紙の圧倒的なくだらなさの前には、この作品の出来のよさもちょっと霞んでしまった感がある。著者の他の作品も読みたいところ。

牧野修「黎明コンビニ血祭り実話SP」+2

著者がSFマガジンなどでよく書いているテキストによる現実改変ものシリーズ? スプラッタ描写が冴えわたっている。脚注の使い方なども素晴らしい。おすすめ。タイトルは大変アレだが中身も別な意味でアレである。

円城塔「Beaver Weaver」±0

評価不能の0。もしくは、韜晦を気にしないでただのスペオペとして読んだ時の評価としての0。

飛浩隆「自生の夢」+2

今回の作品を読んで、飛浩隆はギブスンなのではないかとちょっと思った。文章はきらびやかで空想を刺激するが、その実ディティールはなんだかあやふやだ。もちろん、ディティールを詰めるよりはあやふやである方が安全なこともある。ディティールを精確に記述するのは難しく、ちょっとの間違いが全てをスポイルしがちになる。むしろあやふやであるからこそ空想をうまく刺激させてくれる。作中の設定には個人的にちょっと複雑な気分だが、素晴らしい作品ではある。

伊藤計劃「屍者の帝国」±0

これは評価を放棄するという意味での0で、面白くないという意味ではない。もともと河出から出る予定だった長編のうち、急逝したために中断されてしまった冒頭部分で、正直これだけで評価しろというのが無理というものだ。傑作の予感はすでにあるのだが、まあ、ね。

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