イアン・マクラウド『夏の涯ての島』

This entry was posted by on Sunday, 10 February, 2008

夏の涯ての島

一言で要約すると「渋い」と評されるイアン・マクラウドの初訳となる短編集。SFというかファンタジイというか、どれもこれも一言では説明しづらい味わいのある短編ばかりが揃っている。

表題作は第一次大戦でドイツが勝利した架空のイギリス。そこはやはりファシズムが支配し、全体主義に流れていく不穏な空気が支配しているのだが、物語はそういう架空の歴史を綴るのではなく、その場にあるひとりの人物を描く。幼少期の独裁者と知り合いだったという男を。

この表題作も素晴しかったのだけど、個人的なベストとしては、読むのは何度目かになるが「わが家のサッカーボール」を挙げたい。人類がなぜかほかの動物の姿に変身できるという世界。人々は自分の好きなように姿を変えられるわけだが、精神状態によってはつい何かに変身してしまったりすることもある(恥ずかしい気持ちになると赤面するのと似ているような表現だ)。そんなある日、主人公の母親はナマケモノに変化して戻れなくなってしまう。お医者さんは心の問題だというのだが……という、そんな家族の物語。ストーリーラインは凝っているわけではないのだが、それだけにラストの、主人公たちがサッカーボールで遊んでいるのを見守る母、というありがちな家族の風景が、ここまで奇妙で、しかしここまで感動的であったためしはない。

末尾をかざる一〇〇〇一世界という舞台の二つの作品については、ちょっとピンとこないまま読み進めてしまい、そのまま読み終えてしまった感じ。つまらなくはなかったけれど、惜しいことをしたかもしらん。

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