映画『キック・アス』

This entry was posted by on Tuesday, 11 January, 2011

映画『キック・アス』公式サイト

そうそう、年末に見たよ。渋谷ではいまだに立ち見が出るほどの人気なのだとか。

さて映画版。原作についての感想でちょっと書いたように設定に変更があってそこに不満があるのだが、改めて見なおしてみるとよく出来ている。とくにレッドミストあたりの描写がかなり増えており、原作ではじゃっかん無理のあった(説明不足だった)ストーリー展開にもあまり無理が見られなくなっている。エンターテイメントとして完成度が高く、笑えて面白い。ようするに、ストーリーとしての完成度は映画版のほうが高い。

言うまでもなくヒットガールことクロエ・グレース・モレッツも素晴らしくて、いやもうこの映画はヒットガールを愛でる映画ってことでいいんじゃね?とか思う。あのくちびるの歪めた感じとかスゲエよなあ。あと改めてニコラス・ケイジの怪演に目が行く。この人は狂ってるね。キャラクターの設定として狂った人間なのだが、それを見事に演じきっている。ラスト近辺のシーンなど完全に頭のおかしい人になっていてすごい。

とにかく狂騒的で笑えて、万人にオススメするにはちょっと暴力的すぎるかもしれないけれど、でも誰が見ても楽しめる、いい映画。去年の(あるいは今年の?)映画ベスト10に入るべき映画だよね。

それでもなお、やっぱり映画を見た人には原作も読んでもらいたいな。映画とちがって原作は重苦しくて、内向的だ。なにより決定的に設定が違う。この違いは作品の成り立ちとしては決定的だと思う。この設定の、「キック・アス」というヒーローを描く上で、たとえばビッグ・ダディはああでなければならないのではと思うのだ。そうでないと平仄が合わないという感じがある。

もちろん、そのおかげで原作の『キック・アス』は全く一般向けの作品ではなくなってしまっている。読むと凹む。イヤーな話である。これでは売れないし面白くないので、これを上手くエンタメに軌道修正した映画版のスタッフの手腕や見事。原作からの改変はほとんどないのに万人が見ても楽しめて笑えて面白い。劇場でも何度か笑いが起こってたなあ。

たとえば、ヒットガールの最初の戦闘シーンであんなノーテンキな音楽が流れるのはすごいことである。客観的にはどう考えても凄惨極まりないシーンなのだが、あの音楽のおかげですごいかっこいいシーンだし、ぶるぶる怯えながら戸惑うキック・アスを笑えてしまう。全編通してこの映画は狂騒的でアップビートで笑える映画になっていて、そもそもの設定が狂っているからコメディにならざるをえないのでは、とたぶん視聴者は考えがちなのだけど、実は全然そんなことはない。映像を創り上げたスタッフが、意図的にそうしているのだ。意図的にやっていて大成功なんだから文句のつけようもない。

でも、いやたぶん、だからこそ原作にも価値がある。コインの表裏のように、同じ事象を別な描き方で描いているから。凄惨なシーンを凄惨に描いていて、ラストまで暗いトーンが続き、ビッグ・ダディの狂気もはっきりと描かれている。そういうトコが傑作なのである(あと原作では主人公はふつうに彼女にフラれます)。

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