ニコラス・G・カー『ネット・バカ』

This entry was posted by on Monday, 6 December, 2010

ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること

ほかでも言われていることだが、この邦題はイカンと思う。売り方を間違えてる。こんなタイトルで、養老孟司の推薦とくれば、ネットに偏見のあるオジさん方しか読まなくなってしまうじゃないか。

確かに、この本の主題はウェブの発達が人々に悪影響をもたらすのじゃないか、というところにあって、そういう読者層が歓迎しそうな内容だ。だが、単におやじの繰り言が書いてあるだけの本じゃないし、言われている主張には一定の説得力がある。それにまた一方でネットの弊害だけを並び立てるだけのぬるい本でもない。この本自体がウェブの力がなければ到底成立しなかったことを著者自身が認めているわけで。簡単な本じゃないよ。

著者の主張はこうだ。ウェブでは文章はいろんなデコレーションが施され、ハイパーリンクが散りばめられ、広告が目を引く。こうした環境では読者が文章の中身に集中することは難しくなりがちになる。こうした経験をつむことで、深い考察が次第に失われ、考えが浅くなる。原題にshallow=浅い、もしくは浅瀬という意味の単語が選ばれているのはそうした理由がある。カーは、この本の中では慎重に、「馬鹿になる」と断言しない。集中できなくなる、深い考えが失われると主張する。

この主張は一定の説得力がある。しかし一方でカーはまた、「文字を書くと記憶力が失われる」というソクラテスの主張(とされているもの)を引き合いにだす。言葉といえば口にだすものを意味していた時代、言葉を書き付けるという行為は忌避されてきたことがあるわけだ。結果を言えば、その忌避はナンセンスだったわけだが……このあたりに私は著者の迷いを見る。

それから、著者の掲げる条件を見ていくと、結局Kindleならいいのではないか?とも思えてきて、このあたりはまだ検討の余地があるように思った(一応本の中では否定されているが)。

まあ一読をお勧め。読むと頭がぐるぐるするし、それが著者の狙いだろう。

Comments are closed.