小川一水『妙なる技の乙女たち』

This entry was posted by on Monday, 18 February, 2008

妙なる技の乙女たち

軌道エレベータがついに完成した近未来、その軌道エレベータのふもととなる海上都市リンガを舞台にした連作短編シリーズ。連作といっても舞台が共通なだけで短編どうしのつながりは薄いというかほとんどない。ポプラ社の asta に連載していたらしい。

媒体がそうだからなのかはわからないけど、設定は基本的には背景であって、そういう設定のそういう都市に生活し、働き、思う様々な女性たちの姿を描いた小説として読むべきもので、最後の作品をのぞいてはいわゆるSFっぽさはあまりない。逆に言えば、設定をこんな風にしなくて普通小説としてもつくれる短編も多いと思うが、敢えてこうしたのが作者の拘りなのかもしれない。

ま、ジャンルがそれほど重要なわけでもなく。本書はひとことで言えば「働く女性」を描いた物語(群)なわけであるが、一括りに「働く女性」といっても性格もそこにいる理由も働くわけも直面する困難もそれぞれに分かれている。そういう描き方もいいし、東南アジアに設定されているリンガのやや猥雑な雰囲気も出ていて、なかなかよかった。小川一水はいわゆるSFでないところにも面白い作品はものしているわけで(『こちら郵政省特配課』とか)、そういう雰囲気の、軽めの作品として楽しく読める。

ところで、小川一水は実は mixi のコミュニティも作ったくらいにはファンなのだが(まあ管理者になれているのは先住民特権という気がするが)、どういうところが好きなのかあまり言語化できていなかった。けれども、この本を読んでいてふと「希望の感触」という言葉を思い出した。出展は『天使墜落』。本自体は奥まった山の下の方に積んでしまったようなので取り出せないからうろおぼえで書くけど、「なぜSFを読むのか」という問い掛けに対して「どんなディストピアが舞台でも、未来は自分たちの手で切り開けるという感触がある。それがSFを読む理由だ」っていうような主張を主人公にさせていて、それは作者であるニーヴンの主張なのだろう。そんなようなことを思い出したのである。

個人的には、このニーヴンの主張に諸手を挙げて同意をするわけじゃあないんだが、まーーそういう面もあるかなあ、というくらいの感じ。でだね、小川一水には基本的に、その「希望の感触」があるんではないかな。 もちろんこの本にもね。

こっちもおすすめ、ってことで→ こちら、郵政省特別配達課! 新版

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