S-Fマガジン12月号
クリスマスSF特集と、ワールドコン総括号。
コニー・ウィリス「ニュースレター」
今年のクリスマスは何かがちがう。人々はきちんと列に並ぶし、純文学を読むし、万引きも起きないし、犯罪者は自首するし、ロクデナシとしかつきあわない妹がきちんとした男とつきあっている。共通項は、なぜかみんな帽子をかぶっていること。これは宇宙からの侵略なのでは!? 帽子は寄生生物を隠すためなのでは!?
といった短編。「人々がきちんとしていく」というあたりがコニー・ウィリスのいつもの調子で皮肉たっぷり。こういう話が最終的にどう持っていくか、というとオチは意外とストレートで少し肩透かしだったが、それでも充分に面白い。[*+2*]
チャイナ・ミエヴィル「あの季節がやってきた」
クリスマス(TM)が権利化された未来。クリスマスの各種の意匠も権利が保護されていて人々は伝統的な祝福をすることすらできず、偽物でごまかしてクリスマスを祝う……
いかにもミエヴィルらしいし、もともと社会主義の政党の機関誌に掲載された作品らしいので風刺もわかりやすい。んだけどわかりやすすぎてちょっとマイナスかなあ。そもそもミエヴィルは「基礎」とか、ああいうのは苦手なんだよな。[*±0*]
ピーター・フレンド「クリスマスツリー」
主人公の少年は村の外にクリスマスツリーを発見する。しかも実の熟れごろのすばらしいやつだ。村のみんなは総出でクリスマスツリーの捕獲にかかる、という掌編。ツリーの変てこな生態が面白くて、けっこう良かった。[*+1*]
M・リッカート「郊外の平和」
クリスマス間近の平凡な一家に少し奇妙な出来事が起こる……という短編。うーんどうなのかな。ふつうの文学としてはありかもしれないけど、やはりピンとこなかった。こういう話は苦手だ。[*-1*]
椎名誠「無言飛脚がやってくる」
話としては面白いんだけど、IFってそういうときに使うのかなあという疑問が。架空戦記の人とはだいぶ意見が違いそうだ。それに、一見何も変わらないように見えても実は……というところにもネタがあるんじゃないかという気も。電話のない世界も、飛脚が直に飛び回るよりは大声を出したり手旗信号を使ったり、腕木通信が開発されたりという発展が起きそうな気がするんだよなあ。
いやまあ、「その方がありうる」からといって、こういうナンセンスな世界が言下に否定されるわけではないんだけども。なんかSFっぽいことも書かないとなあ、といった不安というか何かがあるんだろうかと疑ってしまった。[*±0*]
谷中悟「僕たちの放課後」
AIによって制御されたサイボーグみたいな人々が(いろんな『事件』を経て)ふつうに暮らす時代。「子ども」たちは学校に通い、人間のようにふるまう。
設定も描写もいささか類型的にも思えるけれども、切り出される部分をこの場所としたことは上手い。ただ、『事件』の詳細をこの場所でこのように明かすのは上手くないように感じた。[*+1*]
長編の感想とかは略す。ただ、今月のリーダーズ・ストーリイはなかなか良かった。凶悪犯罪者の捕獲に失敗、原子破壊銃で打ち殺してしまった。脳の復元もできないし残された臓器もない。残っているのは飛散した体液に残された遺伝子のみ。そんな犯罪者A-D-AMに科せられた刑罰とは……というところに来る意外なオチが面白かった。
ワールドコンについては特筆することはないかなあ。ただ牧さんによるケリー・リンクのインタビューは必読。面白いです。