塚谷裕一『ドリアン 果実の王』

This entry was posted by on Friday, 13 April, 2007

カラー版 ドリアン―果物の王』は、なかなか強烈なタイトル&表紙だ。

また、新書にしてはちょっと高めだけど、カラー写真がふんだんである。まあ、写真はたいがいドリアンや熱帯の果実をふたつに割ったような絵面か、山と積まれたドリアンの写真だったりするのだが。

「臭い」ということで知られるドリアンだけれども、そんなことはないと著者はいう。それは「外れ」を引かされただけだと。でまあくだくだとドリアンについて、味、香り、食べかたや売られかたはむろん、発芽から生育の過程までが書かれ、著者の巧みな書き方のために、読んでいるとドリアンを食べたくなる。

けれども個人的には白眉は4章「ドリアンの果実史」だね。ここの章だけ、ドリアンの話は(多少は出てくるけれども)メインじゃない。まず、よくある「むかしバナナは高級品だった」という言説があるけれども、あれは嘘だと著者は一蹴する。大正〜昭和初期の日本では、むしろ今のようにふつうに一般庶民が食べるものだった。戦後の貧困期の記憶が「バナナ=高級食材」という図式を生み出している……というわけで、いわゆるトロピカルフルーツが昭和初期にどのように受容されていたかということを、当時の文学や記録から読み起こす。そしてまた、戦後の復興にかけて果実がどのように受容され、その過程で熱帯のフルーツがどうして受容されてこなかったか、も。

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