森見登美彦『新釈・走れメロス、他四篇』

This entry was posted by on Wednesday, 28 March, 2007

新釈 走れメロス 他四篇

森見が近代文学の5本を題材に選び、あらたに書き起こすという短篇集。収録は「山月記」「藪の中」「走れメロス」「桜の森の満開の下」「百物語」。例によって舞台は京都だが、今回は語り口なんかも「原作」に似せてあったりするため、読後感はこれまでの作品とかなり違う。

どれもいいけど、表題作になるだけあって「走れメロス」がいい。っていうこの森見版メロスはやっぱり京大生のアホらしい爛れた友情物語であり、やっぱりまたこんなのか、と思われるかもしれないのだが。

あの「走れメロス」をうまく逆転させている面白さ、森見の(もとの「走れメロス」を意識したけれどもやっぱり例のごとくな)語りくちの面白さも、ある。けれど、オレはやっぱりこの人の書く「友情」が好きなんだな、と思ったんだな。

あれだ、『夜は短し〜』で広く世間に知られるようになって「どうせあんな女が好きなんだろお前らは」とか言われるわけじゃないですか。そりゃ作者は好きかもしれないが、森見の真骨頂は友情にあり、というのがオレの考え。『四畳半神話大系』(→感想しかしこれぜんぜん褒めてるように読めないなあ。いちばん好きなのにすまんことだ)なんてそれだけの話だし。

オレは文学オンチなので、この5本のうち、じつは既読は半分以下である。しかしそれも今じゃ読もうと思えば青空文庫で読めるんだからいい時代になったものだ――ではなかった、そうでなくてもなかなか面白いといえば面白い。とはいえ知っているのとおらぬのでは、やっぱり解釈を楽しむという幅が減るので強くオススメする根拠は減るのだけれど(知ってたら知ってたで「なんだこりゃ」な感想を持つ人もいるだろうから、世の中というのは難しいのだが)、まあ、そこはそれだ。それでも、悪くないと思うよ。

全然関係ないけれど、いいかげん増刷されないのが可哀想なのでみんな『四畳半神話大系』も買ってやってくれ!

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