堀晃『バビロニア・ウェーブ』

This entry was posted by on Wednesday, 28 February, 2007

東京創元社が国内SFを文庫でいろいろ出すという方針を打ち出したらしい。その初回配本がこの『バビロニア・ウェーブ』と、銀英伝。銀英伝はまあ、たぶんほっといても買う人がいるだろうから、せいぜい出版社を潤してほしい。そうして、こういう本もいっしょにばんばん出してほしいもんだ。

さて。

太陽系からわずか3光日の距離に、奇妙な電波障害が観測される。くわしい調査を進めた結果、それは直径1200万km、全長5380光年のレーザ光束だということがわかる。反射鏡をさしいれれば、ほとんど無尽蔵なエネルギーを人類にもたらす。このバビロニア・ウェーブで、極秘の科学プロジェクトが進行していた……というのがおおざっぱな粗筋。というか基本設定。

粗筋はわりとどうでもいいのだ。

SF作品の魅力というのは多面的だが、その面のひとつに間違いなく「途方もなさ」というのがある。途方もないものを描くこと。描かれた描写から想像の翼をはばたかせて、途方もない世界像を脳内に再構築することの楽しみ。

リングワールドからの風景に魅了されたファンもいたろう。ソラリスの海の理解不能性に思いを馳せた者もいるだろう。そういった「古典」だけでなく、イーガンの「ルミナス」や『ディアスポラ』の、ある意味で「想像を絶した」描写に圧倒される人もいるにちがいない。それがSFの魅力のすべてではないとしても、重要な要素のひとつだ。

『バビロニア・ウェーブ』というのは、ようするにこの「途方もなさ」の魅力だけで成り立っている作品である。

上に挙げたバビロニア・ウェーブの巨大さもそうだが、これは序の口。バビロニア・ウェーブの奇妙な性質に関する説明や、外からの描写(レーザなので見えない)。第二仮説。そして最後に提示される宇宙観。どれもこれも途轍もなく、そして魅力的だ。

登場人物は少なく、筆致は淡々としているから、そういうところが気になる人にはおすすめしない。しかし、言わせてもらえば、そうであるからこそ、この作品はバビロニア・ウェーブとそれにまつわる諸々の、途方もない魅力に横溢した作品となれたのだろう。

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