赤朽葉家の伝説

This entry was posted by on Monday, 5 February, 2007

桜庭一樹の新境地を拓いた力作。ってところだろうか。でもわたしとしてはあまり肯定的ではない。

戦後の日本を舞台に、古来からつたわる鉄鋼業を受け継ぐ鳥取の旧家「赤朽葉家」の面々をマジックリアリズム的に(というか『百年の孤独』っぽく) 描いた作品、といったところかな。確かに、奇妙な名前の登場人物たちはどれも一種独特の奇妙な魅力を供えていて、筆者の筆致が生きているという印象があり、面白い。

残念なのは、戦後の日本史描写。時代描写が、なんというか、非常にうすっぺらい。いかにも紋切り型の表現で、なんともしょぼい。あまりのことにガッカリして読むのをやめる人がいてもやむなし、というくらい。

ところが、そのような時代を描いてきた第1部、第2部と比べて、第3部=現代となり、物語は印象をガラリと変える。年代記、列伝といった印象を与えたこれまでとまったく違った話が展開されるようになる、というだけでなく、語り手はなぜ、どのような意図をもってこの物語を書いたか、読者はどのような視点で読むべきだったか、ということが意味付けられ、物語全体の構造が切り替わる。その転回は上手くて、唸らされる。

そいでまた、この本の書き手である第3部の主人公、赤朽葉瞳子は1989年生まれの若い女性であるということからして、ひょっとするとあの浅薄な印象を与える描写も意図的に選択されたことなのかもしれない、という気はする。ただその割に登場人物には時代にあったような言葉づかいでしゃべらせたりといった気遣いは見せているわけで、やっぱりちぐはぐな印象を受けるのだけれど。

なにより、個人的には、これまでのような神話的な、魔術的な物語がそのような方向に切り替わったときに「けっきょくそういう話なのか」とちょっと落胆してしまった。切り替わった先が途轍もなく面白ければオッケーだったのかもしれないけれど、なんというか、ふつうに面白いんだけどそれだけなので、そんな仕掛けをするほどのことか、という気もするのだね。

でもまあ、そんなに悪いものではないです。面白いよ。

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