森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』
>なんと素敵なマジックリアリズム小説。
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>『四畳半神話体系』はSFだった。『きつねのはなし』は怪談。『太陽の塔』なんて単なるリアリズム小説じゃん?
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>本書はマジックリアリズムだった。
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>謎の李白老人が三階建ての路面電車であらわれ、贋電気ブランで酒量勝負をする。詭弁論部はウナギ踊りをする。錦鯉が空を舞う。古本市には神様がおり、鍋で我慢対決だ。学園祭には韋駄天コタツが出現し、パンツ総番長が正座している。
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>ところで、さすがにパンツ総番長の初登場シーンにはつい吹き出してしまった。そのような笑えるシーンはどんな読者でも一箇所か二箇所かはあるだろう。奇怪であり、愉快であり、魔術的なリアリズムである。実にすばらしい。
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>そんでもって、恋愛小説でもあった(帯にはそのように書いてある)。
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>著者自身がこの可愛らしい表紙に「
>はっきり言って詐欺ではないのか
>」などと韜晦しているわけであるが、どっこい詐欺でもなんでもなかった。『太陽の塔』などの屈折した物語ではなく(という面もあるけど)、ちゃんとふつうに恋愛小説でいい話であった。
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>これまでの作品を趣を異にするのは、鬱屈した男性主人公視点だけから描かれているわけではないということ。これがまあ、うまく物語をドライブしているし、緩急もついていて実に面白い。女性の読者は「こんな女いねぇよ」と怒るかもしれないけど。
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>全部で4編の短編で構成されていて、それぞれのエピソードもきちんと緻密に構成されていて巧いし、全体を俯瞰しても、ラストシーンに至る過程が上手くて、面白い。それに、だからこの本はこういう語りで構成されている、という部分がピタリ綺麗に決まっている(というのは褒めすぎか)。
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>いやもう、なんというか、期待していたよりずっと良かったです。満足、満足。
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