山本弘『アイの物語』
>素直に面白かった。これまで発表された短編をいくつかまとめて、ヒトとロボットの間の関係を描いたようなそうでもないような長編とその挿話というかたちで仕立て上げた作品集。
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>わりとネタをわってしまうけれど、山本弘という作家は、やっぱり考証を厳密に積み重ねるところに重きを置いていないのだろう。ということは京フェスで聞いていたからそう思うのかもしれないけれど、だからこれは同じロボットテーマであるという理由で『デカルトの密室』とかと比較するのはおかしい。
>飛浩隆が「ぎゃっ」と叫ぶ
>のもよくわかる。なんというか、作家の資質というか、描きたいことは、意外にもそちらによく似ている、のかも。
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>で、それは何かというと、フィクションと現実の関わりということ。仮想と現実、といってもいいけれど、やはりこの言葉の方がこの本にはよく似合う。ロボット、というのは存在とか成立ちがそもそも虚構=フィクションなもの、として定義できる。この物語はそこにある。
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>2点ほど注意を喚起しておくこと。
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>1点め。これまで発表された、ぜんぜん文脈の異なる5本の短編をうまくまとめたというのが一つの成果として言われている。それは正しい評価だと思うのだが一方、ページ数で見ると書き下ろしの短編「詩音が来た日」と「アイの物語」で全体の半分以上を占める。読了時の印象は、そちらに強く引き摺られている気もする。といっても、きちんと、それぞれの短編がそこにある意味はきちんとあるので、その点は上手い。
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>2点め。この物語の終点。これは救いなのだろうか。ハッピーエンドなのだろうか。わたしはこの物語には素直には感動できない。いい話のふりをしているけれども、疑問は残る。
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>とはいえ、「いい話のフリをしているけど実は……」という構造は、SFというジャンルにおいては「いいSF」の充分条件であるとも言える。そうであることも含めて素晴しい。
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