ケン・マクラウド『ニュートンズ・ウェイク』
>『カズム・シティ』はどうにも退屈だったので、口直しに、とばかりにこちらも併読するつもりが、あっさりこちらを先に読み終えてしまったよ。やあ、面白い面白い。
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>面白いのだけど、どの辺が先鋭的で、どの辺がニューなのかはよくわからない。
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>というかむしろこれはRPGだと思いませんか諸君。いやなんかもう「すげえRPGみたいな設定だなー」と思いながら読みましたですよ。
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>どういう設定かというと、こういう感じ。
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>機械知性が発達してついに人類を追いこし(=特異点に到達し)、人類に叛旗をひるがえして現人類との戦争になる(強制昇天(ラプチャー) と言われる)。しかし、「後人類」と呼ばれるAIたちはいずこともなく去っていってしまう。残されたわずかな人類は、後人類が残した超常機械たち(原理はよくわからないが使うことはできる、機械単体では特異点には到達していない、というか到達してたものは「後人類」となって消滅している)とつきあいながら文明を復興させつつ、互いに対立したり協力したりする。……とまあ、こういうという設定がまずRPGっぽい。古代文明の遺跡ですかと。
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>そんで、文明復興の担い手とも言うべき4つの勢力がまた、いかにもだ。
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>第一に啓蒙騎士団(KE)。
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>源流は日本人、中国人、インド人だとされる。後人類の残した遺産をなんとか解析したり理解したり運用したりしながら、特異点には至らないように至らないようにする一派。
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>仏教をモチーフにしたようなよくわからない無常観みたいなものを漂わせているが、外見はジーパンにシャツというナード感あふれる服装。ただ、なにせヨガとかで戦闘能力は高かったりするらしい。
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>宇宙は永劫に繰り返すことを数学的に証明したと主張しており(これがある種の無常観に繋がる)、人格のアップロードとかダウンロード、バックアップなどは行わない。「次のサイクル」に託すとされる。
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>第二にアメリカ・オフライン(AO)。
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>名前どおりアメリカに起源を持つ集団で、自分からは技術を発見したり理解したりしようとせず、様々な星をテラフォーミングし、植民しつづける農夫たち。あんまし出番はない。しかし、いくらなんでもあんまりというかダイレクトすぎるネーミングにびっくりだ。
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>第三にDK。民主共産主義連合の略称であろうとされる。
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>朝鮮とカンボジアに起源を持つ共産主義者。後人類の遺産については熱心に解析するわけではないが、技術を購入して利用することは厭わないし、時には主体(チュチェ)的に理解し、改造を施したりする。
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>第四がカーライル家。
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>グラスゴーに拠点を持つマフィアの集団……ではなくて、たぶん自由民たちの緩やかな連合体といったイメージだろう。とりしきっているのがカーライルという一族なので、この名がある。
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>後人類たちが残したと思われるワームホールゲートを過去に発見し、その権益を一手に独占している交易の一家。新しく発見されたゲートの探索や、行き先で発見した後人類技術の回収と利用・販売などを行う(実戦考古学といわれる)。
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>こういった面白げな勢力たちに加え、自身も昇天したいと願うという鳴神追いみたいな面白い設定もあって、いかにもRPG的である。特に物語の「Bパート」の冒頭なんて、なんかのRPGのノベライズで読んだことがあるんじゃないか、的な既視感のあるシーンであります。
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>でまぁ、それがまずいかというと、面白いわけですよ。なんか高尚なものとかを期待しちゃうと肩すかしですが、スペースオペラの設定に一捻り加えたようなこういう背景設定は、とってもエンターテイメントしていて面白い。現実の歴史に妙な変更を加えたくすぐりや小ネタもあり、読んでいて楽しい作品となっている。
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>わりとオススメです。ふつうに面白いよ。
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