市川春子『25時のバカンス』

This entry was posted by on Saturday, 24 September, 2011

25時のバカンス 市川春子作品集(2)

虫と歌』に続く短篇集の2冊目。「25時のバカンス」「パンドラにて」「月の葬式」の三編を収録。

『虫と歌』もそうだったが、市川春子の作品は宇宙人とか未知の生物とか、設定はSF的だが、物語としてはファンタジーだと思う。作中の奇妙な設定は、ただ単にそういうものである、というだけでもいいと思うが、つねに一定の「言い訳」が加わり、そうすることでSFになっている。とはいえ言い訳は言い訳でしかなく、物語の主軸は別にあるようにも感じられる。シンプルで少しふわっとした描線も、「SFというよりはファンタジー」というイメージにぴったりくる。

だがそれでいて、スレたSFおたくの心の琴線に触れる何かもあるような気がする。まあ端的に言えば私は好きだ、ということなんだけど、少なくとも年間SF傑作選に選ばれるような何かがあると言っていいと思う。例えば「25時のバカンス」に登場する異形の生物たちの不思議な愛らしさ。「パンドラにて」の結末の光景。そういうところにはグッとくるものがある(そういえば年間SF傑作選に収録された「日下兄妹」も変な宇宙生物を描いた話だったような)。奇妙な形態のへんないきもの、への愛。それってSFの原体験だよね。

収録作みっつのなかでは「25時のバカンス」がやはり一番良いかな。へんないきものを愛し、妙にピュアなところのある主人公は、読者とも重なる。

おすすめです。

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