『原色の想像力』

This entry was posted by on Wednesday, 22 December, 2010

原色の想像力 (創元SF短編賞アンソロジー)

第1回創元SF短編賞で最終選考に残った作品のなかからのセレクション9編+受賞者による受賞後第1作を収録したアンソロジー。読了後に選考座談会を読むとまた味わい深いものがある。

読んでいて思ったのは、それぞれ問題はあるけれどもそれなりに味のある作品であるということと、個人的な好き嫌いや作品の出来とは別に「SF賞」としての受賞作であるかどうかという議論はありうるなあということ。小説としての面白さを重視するか、SF賞としての体裁を守るか、というのはことこの最終選考作品たちを眺めた感じでは難しい問題で、端的にいうと広義のSFではあるが(SFかどうかで議論の余地はあるが)よく書けているものと、狭義のSFではあるが瑕疵のあるものと、それぞれだなあというところ。けっきょく両者のバランスが良かった「あがり」が取った、というふうに理解した。募集要項が「広義のSF」なんだから……とも思うけど、第1回なんだし、という判断もあったかなと思う。

読者による人気投票も開催されているようなので、そちらもぜひ。個人的なベスト3は「盤上の夜」「うどん キツネつきの」「ぼくの手のなかでしずかに」とする。

うどん キツネつきの

女子高生が拾った奇妙な子犬「うどん」にまつわるエピソードを連ねた話。細かいエピソードからだんだんと雰囲気を盛り上げておいて不思議なオチで落とすところはとても上手くて好感が持てる。これは面白いと思うなあ。ただ、確かに「SF賞」と冠した賞の第1回を受賞するにはさすがにSFっぽくなさすぎる気もしたので、選考人たちの苦労が忍ばれた。2回目とか3回目ならこういうのでもいいんじゃないかと思うんですよね。

猫のチュトラリー

介護用ヘルパーロボットが間違って猫を人間と思い込んでしまうというコメディ。気が効いていて面白かった。確かにインパクトは弱いかもしれないけど、こういう作品はとても好き。読者投票でも3つというので挙げませんでしたが、挙げても良かったかも。けっこう悩みました。ところで「動物のお医者さん」を連想したという選評にちょっと納得。私が連想したのは「あ〜る」でしたが(そのまんまや)。

時計じかけの天使

いじめ対策用にいじめられるためのロボットが学級に組み込まれるという設定の作品。これも個人的には面白く読んだ。いじめられっ子がロボットに罪悪感を感じていくあたりの描写がうまいと思う。これは賞をとっても良かったんじゃないかと思ったな。選評の指摘は本質的だとは思うけど。

人魚の海

異世界の南方の島を舞台にした神話調のストーリー。個人的には全然ダメだった。普通の神話としてはよく書けているけど、単にそれだけに感じられた。主要登場人物の奇妙な生まれが何かの伏線なのかと思ったけど特に回収されなかったのも、神話の主人公というのはそういういわれを持ってるものだから、なんだろうか。あとで選評を読んでまた微妙な気分になったりしたが、まあそれはそれだ。

かな式 まちかど

各かな文字が人格を持ったとみなしたメタフィクション? 独特のテイストは悪くはないのかもしれないがあんまりノレなかった……。

ママはユビキタス

宇宙SFで、宇宙船にただ一人残された主人公が設定をあれこれ語るという体裁。このタイトルでこの内容かよwというのにまずびっくり。こういう作品は嫌いじゃないと思いつつ、あまり褒めるべき点が見つからないなあという印象。既存のSFと比べてオリジナルな点が見えてこない設定だと感じた。またもしテーマが愛なのだとすれば、この坦々とした描写の行間からそれを漂わせる技量が必要だったと思う。

土の塵

タイムトラベルもの。ストーリーとしてはありがちだが、存在の環と聖書の表現を結びつけるあたりに新鮮さを感じた(海外の作品にいっぱいありそうだけどねえ。すぐには思い当たらない)。けっこう面白く読んだ。ただ確かに、もしこのタイムスリップの設定が全面改稿で、原版ではほとんど説明がなかったのだとすると弱かったかもしれない。このバージョンですら、なんかちぐはぐな印象は受ける。

盤上の夜

四肢を失った女性が身体感覚を碁盤の上に投射し、稀代の碁打ちとなったことを語り伝える体裁の作品。これもすごく面白い。けど確かにSFなのかというのはよくわからない。ファンタジーノベル大賞なら拾っただろうね、みたいな感じ。アイディアとしてはそれほど目新しいとは思わないけれど、語り口も面白いし、ラストも良かった。個人的にはベスト。

さえずりの宇宙

あらすじは書きづらいなあ。不思議な体裁の作品。個人的には評価しないなあ。新城カズマのような作風は個人的に全く評価しないし、最先端だとも思わないので、それを模倣されても、という困惑が残る。

ぼくの手のなかでしずかに

ポスドク数学者の淡い恋を描いた作品だが、意外な方面からのSF設定とオチが目を引いた。「すべてはマグロのためだった」をちょっと思い出しました。「あがり」の作者の作だが、この人は安定しているな、という印象を受けた感じ。わりと手堅く、大ネタは炸裂しないが、読ませる。気に入りました。

最後に選考会の様子が再掲されているけれど、これは良い判断。読み終えた後に選評人たちの評価を聞きつつ、頷いたり首をかしげたり、こういうところは直されたのかなとか憶測を巡らせるのがなかなか楽しい。

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