伊藤計劃『虐殺器官』
『Self-Reference ENGINE』といっしょの小松左京賞落選組。しかし SRE もこれも落ちるとは(中略)だよな。
うーん、ただ、わたしの周りじゃいっしょに傑作傑作言われてて、なるほど面白いんですがわたしはそこまででも、と思った。
9・11以降、世界各地では内乱と虐殺が頻発。アメリカは各地の紛争を押える戦争をしている。主人公は、虐殺の中心的な人物を暗殺する米軍特殊部隊の一員。ところがあるときから、世界のどの虐殺の場にもいて暗殺の対象となる謎のアメリカ人、ジョン・ポールを追う……。
というかなりハードでミリタリー色の強そうに見えるかもしれないけど、そういう面は意外と少ない。虐殺の真相にいたるSFアイディアと、イーガンにも似た主人公の思弁がポイント。特に、相手に同情しないように感情を抑制されて暗殺を遂行する主人公の「意思」とは何か?といった問い掛けが非常に効いている。
のだけど。
敵役であるジョン・ポールの真の目的、というのがなんというかな、陳腐というか、一昔前のゲームかアニメみたいなので個人的にはちょっと拍子抜け。その陳腐さもまたテーマのひとつなのかもだけど、そこは「うーんそれでいいのか……」とちょっと思ってしまった。
タイトルにある虐殺器官についても、謎が提示されているだけで終わっているという印象で、なんというかスジを通していない気がする。SFとしてそういう設定があることを疑問視したいのではなくて、いったんあるとした設定を「なぜそんなものがあるのか?」という疑問が提示されてほったらかされているので。それなら疑問は提示しない方がよかったのではないかと思うんだけどなあ。
しかしまあ、こういった無意味な難癖をつけたくなるのは面白さの証なのかも。
あと、基本的に至極まじめな話なのに、唐突に
>文字はフジワラという名前のトウフ・ショップが使っていた車であることを物語っている。
とか、
>好きだの嫌いだの、最初にそう言いだしたのは誰なんだろうね
とかいったコネタがいきなり登場するのも意味不明ですが愉快です。