飛浩隆『ラギッド・ガール』
>無茶苦茶面白い!
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>傑作です。
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>『グラン・ヴァカンス』から、えーと、4年? その間にSFマガジンで掲載してきた中短編に書き下ろしを加えた作品集。
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>夏の硝視体
>」 『グラン・ヴァカンス』販促(?)用の掌篇。これはちょっと印象が薄いというか、さらっと読めてしまってそれほど強いフックもなく。設定紹介めいたところがあって、まあふつう。
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>「
>ラギッド・ガール
>」 傑作。『グラン・ヴァカンス』ではすでに「あるもの」だった「数値海岸」を構築する者たちの物語。再読してもなお面白い。
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>「
>クローゼット
>」 ラギッド・ガールの、まあ、続編というか後日譚のひとつ。「情報的似姿」によって謎めいた自殺か事故か、それとも凝った他殺か、謎の死を遂げた同居人。その死の謎を追うというような構成で、ミステリかホラーのような仕立てがなされていて趣きもあるが、ただどうしてもラギッド・ガールの鮮烈さに比べるとちょっと見劣りがしてしまうという難点がある。
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>「
>魔述師
>」 書き下ろし。これがまた面白い。ほかの区界にわたる「鯨」を育種・修繕する区界「ズナームカ」の物語と、ある人物へのインタビューとが交互にやってくる構成で、シリーズの根幹にかかわる設定である「大途絶」を描く。徒弟制が採用されるヨーロッパ、とくにドイツを思わせるズナームカの描写に、「魔述師」たちの語る世界のありさまの話。これだけでも独立して楽しめるのに、これにインタビューを加えて緊張感のある構成になっている。
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>「
>蜘蛛の王
>」 『グラン・ヴァカンス』に登場したランゴーニの前日譚。SFマガジン掲載時からけっこう好きだった。ほかのに比べると、山風忍法帳か何かのような「蜘蛛衆」たちや、汎用樹の区界の世界設定の面白さが実にエンターテイメントしている。作者があとがきで書いているように、確かに息もつかせぬ派手な展開。最初に読んだときには「数値海岸というのはこうした世界もありなのか」と驚いたくらいで、あらためてほかの4作品と並べると「ちょっと走りすぎたんじゃないかなあ」と思えるのだけど、綺麗に整合しないように思えるけど辻褄はちゃんと合わせてある。素直に面白い。
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>というわけで、なんというか、これをどういう角度から攻めるとすっきりまとまった評価を下せるのかがわからないのでそれぞれに感想を書くという構成になってしまった。
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>飛浩隆の面白いところは、当人は特にハードSFに興味があるわけではないところだろう。というのは、現実の科学技術に立脚して深い考察や洞察を与えるというアプローチを取っていないのだが、自分で考えた設定をふくらませ、つきつめてから読者に提示しているので、その辺にあるハードSFなどより設定という面で見てもよっぽど先鋭的になってしまっているという現象が起きているからだ。しかも、それを設定として、背景説明として植え込むのではなくて、物語ときちんと融合している。
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>いや、面白かった。あとまあ、正直『グラン・ヴァカンス』は細部の表現を忘れているので、再読したくなりました。
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>ちなみに amazon にも書影はないけど、表紙はとっても地味だから要注意だ。webの画像で見ると、真っ白に赤でなかなか鮮烈な印象なんだけどねぇ。本屋だと不思議と目立たない。
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