小川一水『天涯の砦』
>これは手放しで褒めたたえたい。
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>月植民が開始された昨今、その中継ポートとなった宇宙ステーション「望天」が崩壊を起こしてしまう、というストーリー、読みはじめはちょっと『復活の地』を連想して「またパニック/災害ものか」とちょっと思ったけど、そうでもなかった。いや、ジャンルもサバイバルものと少し違うんですが、それもあってかなんとなく手触りが違う感じ。
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>サバイバルものとしての特徴は、あまりにも絶望的すぎる状況(事件発端当初、主人公たちは互いに孤立して顔も見えない状態)にもあるのですが、もっと特徴的なのは登場人物。
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>どいつもこいつも破綻した人格の人間ばっかり。ろくでもない奴等です。しかもこういう話の場合、サバイバーたちの小コミュニティというか連帯感によってそういう破綻した一面が修復されて社会性を回復するという展開がよくあるパターンですが、特にそういうこともなく、むしろだんだん極限状態に追い込まれていって、そのために事態も悪化していく。まあ、そういう展開の話もありがちっていえばありがちですけれども。
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>そいで、そんな話のくせになぜか爽やかな決着がつけられるのも、筆者のある種の腕力のたまもの。
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>ただ、手放しに褒めると上に書いたわりに言うと、小川一水作品としてはほかのものの方がもっと凄いと個人的には思うけれど(たとえば「漂った男」のように、社会と個人の関係みたいなテーマは本書には特にないし)、サバイバルもののエンターテイメントとしては非常によく書けていて面白い。本年ベスト候補のひとつ。
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