スーザン・A・クランシー『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』
>心理学者にしてアブダクションの研究を進めている著者が、アブダクティの語った内容について、まさにタイトルのように、なぜエイリアンに誘拐された「と思うのか」について書いた本。
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>読む前はわたしもちょっと誤解していたのだけど、この本はよくあるような、アブダクティの証言を取り上げて誤りを指摘したり論破したりするような本とは少し違う。
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>もちろん、アブダクション現象が起きたように思えるにはいろいろ科学的な説明が可能だし、そのことじたいはこの本にもいっぱい書いてある。しかし、本書でより重視されているのは、そのような合理的に納得できる説明があり、時としてアブダクティ本人もその説明の妥当性を認めているにもかかわらず、なぜアブダクションが自分の身に起きたと
>信じてしまう
>のだろうか?という疑問だ。そしてその疑問がこの本の主題になっている。
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>もうひとつポイントになっているのは、アブダクティが「普通の人」だと強調することだ。アブダクティたちは、自分がエイリアンに誘拐されたと確信している以外には実にふつうの人がいっぱいいるという。つまりたとえば学歴であるとかいった要素は関係ないのだという。そこで疑問は、そうした「普通の人」が、なぜ、いかにしてエイリアンに自分が誘拐されたと信じるようになるか?という疑問に変わる。
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>だからこの本は、人間の記憶がいかに容易く改竄されうるかという記憶や認知に関わる本になっている。上に書いたように筆者は心理学者で、もともと記憶にかかわるプロセスや、催眠による記憶の捏造などの研究をしたくてアブダクションに着目したのだという。この視点からきちんと論じた本というのはあんまり見たことがない(まあ、こういう系の本もあんまり読んだことないけど)。
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>したがってポイントとなるのは、なぜほかの理由ではなく「エイリアンに誘拐された」という理由を採用し信じてしまうのか、という点にある。そこからさらに筆者は、「エイリアン」とか「アブダクション」とかいった現象が現代のアメリカ社会でどういう意味を持つか、ということにまで議論を敷衍していく。
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>まあ、アブダクションと宗教体験の類似性を指摘しつつ「けっきょくエイリアンというのは時代に合わせて適合されたイメージなのだ」という、落ち着くところに落ち着くので、結論がすごく先鋭的であるということはないけれども、冷静な筆致ながら非常に説得力があって良かった。とても面白いです。
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