小松秀樹『医療崩壊』

This entry was posted by on Thursday, 1 June, 2006
> > >確かにすごい本でした。 > >日本の医療システムに関する様々な問題を、多くの具体例に言及しつつ、あくまでも「現場の医師の立場」として論じている本。たぶん、風野さんもそのように書かれているがこういう感覚じたいは医師のあいだではそれほど珍しいことじゃないのだろう。しかし、とにかくふんだんな具体例と問題点に対する具体的な批判、細部にわたる説明、どうするべきかという対案の提示、他国で取られた政策とその結果など、実に多岐にわたって詳解されている点がすごい。労作である。 > >そういう関係で内容は実に多岐にわたるため、咀嚼するのがしんどくなるほどであるが、医療従事者でない我々を読者と想定した場合には、ようするに次の齟齬を明確化することがこの本の目的なのだと思う。 >
> >患者は、現代医学は万能であり、あらゆる病気はたちどころに発見され、適切な治療を行えば人が死ぬことはないと思っている。医療にリスクを伴ってはならず、100パーセントの安全が保証されなければならない。善い医師の行う医療では有害なことは起こり得ず、有害なことが起こるとすれば、その医師は非難されるべき悪い医師である。医師や看護師は、労働条件がいかに過酷であろうと、誤ってはならず、過誤は費用(人員配置)やシステムの問題ではなく、善悪の問題だと思っている。 >
> >これに対し、医師は医療に限界があるだけでなく、危険であると思っている。 > > >適切な医療が実施されても、結果として患者に傷害をもたらすことが少なくない。手術など多くの医療行為は身体に対する侵襲(ダメージ)を伴う。個人による差異も大きい。死は不可避であり予測できない。どうしても医療は不確実にならざるを得ない。同じ医療を行っても、結果は単一にならず分散するというのが医師の常識である。 >
> >医療従事者は、患者の無理な要求を支持するマスコミ、警察、司法から不当 > > >に攻撃されていると感じている。このため、医師は勤労意欲を失い、病院から離れはじめた。多くの新人看護師が、医療事故の当事者となるのを恐れて、病院を辞めている。 >
> >これは結論からの引用だが、この本の中では同様の内容が再三再四というか、しつこいくらいに繰り返し書かれている。 > >この「立ち去り型サボタージュ」の結果、日本の医療は崩壊の危機にある(というか一部はすでに崩壊している)と著者は述べる。患者が100%の安全を期待するために、医者は要求に応えることができずに医療が放棄されると著者は言う。過度の期待のために、かえって医療費が増大し、むしろ提供される医療の質を落とすことになると繰り返し繰り返し説明する。 > >読む価値のある本だと思いました。 >

Comments are closed.