貴志祐介『新世界より』

This entry was posted by on Monday, 25 February, 2008

新世界より 上 新世界より 下

完成度の高いエンターテイメントを読まされると、ここが面白い、ここがいい、そういった部分部分の良さはむしろ後退し、渾然一体となった全体として面白さだけが頭に残る。そのため「あー面白かった!」というつまんない感想以外が出てこない。そんな感じのエンターテイメント巨編。あー面白かった。

1000年後の未来、人々は「呪力」というパワーを持っていて、平和に、ほそぼそと暮らしている。ところがその世界は……という設定は、こうして書いてみるとびっくりするほとありきたりだ。超能力ものにありがちな「大多数の一般人vs少数の超能力者」という構図の場合、舞台を現代にして対立や戦争の予兆を描くものが多いけれども、そういうことがあった遥か後の時代をこんな風に描くというのはあまり見かけない……が、そこに新しさを求めるのはなんか違う。けれども、こういう設定がとても有効に機能していて伏線をきちんと張ってきちんと回収していて、なおかつとてもリーダビリティが高く、さらに読み応えもちゃんとある。ブ厚いし安いわけではないけど、厚さのわりに値段は高くないし、それだけの価値がある傑作です。

主人公が10年後から回想した手記という設定を取っていることを念頭に置くとちょっと気になる描写もあるし、そもそもこんな長い手記書くやつがいるか(笑)といった齟齬がないわけでもないけど、基本的にたいへん面白い。ところが、「どこが?」と問われるととたんに「全体的に」としか言えないのが悲しいところ。アクションあり感動ありグロあり笑いありなんでもありで大変よろしいのですよ。

それはそれとして「略奪者集団」の描写がいかにも北斗の拳だったりするあたりには苦笑しました。

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